【連載・これからの大学入試②】ついに実施! 第1回「大学入学共通テスト」をふり返る(後編)

2021年、センター試験に替わってついに実施された「大学入学共通テスト(以下、共通テスト)」。「記述式問題や英語の民間検定による選抜方式を導入する!」と発表されたかと思えば最終的に見送られるなど、受験生たちはやや振り回された感もありました。では実際のところ、何が変わったのでしょうか。前編では全体を俯瞰しながら解説しましたが、後編となる今回は、センター試験と対比しながら具体的な各教科の出題内容にも触れつつ、もう少し詳しく傾向分析してみたいと思います。

日常のできごとに当てはめ、過程を横断しながら解く「数学」

まずは数学です。センター試験との大きな相違は、日常的な課題を数理的思考で解決する問題が多く出題されたことでした。知識の応用力を問うためです。前編でも触れた「100m走のタイムを良くするベストな走り方」を二次関数で求める問題のほか、複数あるくじ箱のどれからくじを引いたのかを、会話文から考察する確率の問題も出ています。

加えて、大問でいくつかの問題を課しつつ、それらで導いた値を横断しなければ回答するのが難しい設問が目立ったことも見逃がせません。新しい学力観である「思考力」「判断力」の考え方に紐づき、過程を振り返りながらものごとを考える力を問う狙いがあったのでしょう。

ちなみに、数学という学問の根本には「得た結果(解や公式など)を一般化できるようにする」という目標があり、その本質に忠実な問題だったとも言えます。あなたも「公式なんか覚えて何の役に立つの」と思ったことがあるかもしれませんが、何の役に立つのかを考えられるようにするのが数学の本質だと言えるかもしれません。今後の学習においては、単に解を導き出して終わるのではなく、それを実生活に応用できないか考える癖付けを行っておくことが重要になってくるでしょう。

くじを題材にした確率の問題

使用語彙は大幅増、情報処理能力も求められた英語

最も変更点が多く、難易度も上がったのが英語です。まずリーディングにおいては、単語の訳を答えるなど「知識を単独で問う」問題はなくなり、すべて文章題から読解する内容に変わりました。このため、多くの受験生が「時間が足りなかった」と振り返っています。内容も「姉妹校の生徒をもてなす」「アイスホッケーの安全性を高めるポスターを作る」など、現実的なシチュエーションが設定されました。また、グラフから読み取ったり、問題文に直接記載のない「行間を読む」読解力が必要だったり、やはり「思考力」や「判断力」を活用することが重視されたと言えるでしょう。

加えて、設問内で用いられた語彙の数は、昨年のセンター試験の約1.3倍。約1,100語増の約3,900語となるなど、絶対的な知識量も求められています。

リスニングも難易度は上昇。語彙数は約400語増えたうえ、配点はセンター試験時の50点からリーディングと同じ100点へと倍増。かねてから言われていたとおり、英語4技能を高めたいという全体的な英語教育の方針が反映されたと言えます。さらに、第3問以降の問題文は1回しか読み上げがない(センター試験では2回)一発勝負だったことも、受験生の苦戦を招きました。

またリーディング、リスニングとも、パラフレーズ(言い換え)が多用されたことも大きな傾向。例えば問題文では「a week」と書かれていても、回答選択肢では「seven days」と記載されているなどです。総じて、英語能力だけでは足りず、それを用いた「情報処理能力」が求められていたと言えます。


メールや資料を総合的に読み解き、姉妹校の生徒をもてなすプランを考える問題

選択式であっても思考力が必要な理科・社会。国語は大きな変動なし

社会科系や理科系でも、問題を日常生活と関連付ける、複数の図や資料を組み合わせて読み解く、公式や解法の丸暗記だけでは解けないといった思考力を問う出題傾向は、おおむね他教科と同様です。

例えば日本史Bでは、空欄に入る語句とその「理由」や「目的」をそれぞれ選ぶ2段階方式の問題が出題されています。選択式であっても思考力が問われる内容です。また、「化学基礎」の「陽イオン交換樹脂」に関する問題も注目を集めました。陽イオン交換樹脂は、化学基礎という教科では扱われない物質です。そのための補足解説文も添えられていますが、これを正しく理解して臨まなければ解けません。初見の情報をいかに処理できるかを問う、共通テストの趣旨をよく体現した問題であったと言えます。ほか、実験の結果を考察するだけでなく「どんな実験が必要か」を問う問題(生物基礎)も出題されました。

一方で、センター試験と比べて大きな変化が目立たなかったのが国語です。問題文の素材となった小説とその批評文の両方から読み解くなど新しい試みはありましたが、難易度はや出題傾向はセンター試験と大差がなかったようです。国語は記述式問題の中心となる予定だったため、その採用が見送られたことが大きかったのかもしれません。

このように思考力や判断力が強く問われた初の共通テスト。今後、正式に記述式が導入されれば、表現力も問われるようになります。今後も、普段から「自分の頭で考える」トレーニングをしておくことが対策のカギとなってきそうです。

初見となる知識も、解説を読解して問題を解く力が問われる

※記事の内容は執筆時点のものです。入試制度などは今後、変更となる可能性があります。

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