【連載・これからの大学入試④】共通テストに新科目! 2025年から「情報」を導入

近年、次々と改革が進む大学入試。その先陣を切り、2021年から「大学入学共通テスト」(以下、共通テスト)が始まっています。さらに先ごろの発表で、2025年の共通テストから、新しい試験科目として「情報」を導入する方針であることが分かりました。2025年と言えば、現在(2021年度)の中2がその初年度生ということになります。いったいどんな試験になるのでしょうか。導入のねらいや内容について、正しく理解しておきましょう。

「情報」とはそもそもどんな教科なのか

「情報」が教科として高校に導入されたのは2003年度。親世代にはあまり馴染みがない教科かもしれません。「パソコンの使い方を勉強するんでしょ?」という、ふんわりとした認識の方も多いのではないでしょうか。そこでまずは、「情報科」という教科の中身について知っておきたいところです。

現在、高校の情報科は「社会と情報」「情報の科学」の2科目で構成されています。前者は情報機器を活用したコミュニケーション力などを養う内容です。例えばスマホやSNSとどう関わるかといった、ネットリテラシーなどもここに含まれます。対して後者は、コンピュータを活用した問題解決(プログラミングを含む)など、より具体的な知識や技術を身につける内容です。

この2科目は選択式で、どちらを選ぶかは各学校の判断に委ねられています。ただ、専門性が高い「情報の科学」を指導できる教員が不足していることから、およそ8割の学校が「社会と情報」を選んでいるのが実情です。

2022年度よりプログラミングが必履修化され、新科目に再編成

しかし、高校の学習指導要領が2022年度に改訂。情報科は、この2科目を統合した新科目「情報Ⅰ」と、より専門的な上位科目の「情報Ⅱ」に再編されます。つまり、これまで「情報の科学」で学んでいた難易度の高い内容も「情報Ⅰ」で全員学習してもらいますよ、ということです。

「情報Ⅰ」の目玉はプログラミングが必履修化されることで、簡単なスマホアプリ程度なら自作できるレベルを想定。さらにネットワークデータの活用や情報のデザインについても学び、それらを通じて実社会の問題解決を図る能力を養います。共通テストでは、この「情報Ⅰ」が出題範囲になる予定です。

「パソコンの使い方を学ぶのが情報科」という認識は、広い意味では間違っていませんが、WordやExcelの使い方を覚えるといったレベルではありません。私たちの想像よりもはるかに高度な内容であり、共通テストもその水準で出題されるということです。

情報科の変遷

プログラミングは「できて当たり前」の社会を目指す

しかし、なぜここまで「情報」が重視されるようになったのでしょうか。結論から言うと、それが、わが国が目指す人材育成の大きな方向性だからです。始まりは2013年、政府が「世界最先端IT国家創造宣言」を閣議決定したこと。ここで「世界的なICT化が進む社会で、すべての国民がデジタル技術を使いこなせるようにする」という方針を強く打ち出しました。

そして、そんな社会を支える次世代人材を育てるために、情報教育を強化しようと考えたのです。事実、新しい学習指導要領では、小学校や中学校でもプログラミング学習が必履修化されています。学習塾でも、小学生向けのロボットプログラミングなどを取り入れるケースが目立つようになりましたが、それもこうした背景があってのことなのです。

もちろん、情報科はプログラミングだけを学ぶ教科ではありませんし、日本の子どもたちすべてをプログラマーにしようというのでもありません。むしろ「プログラミングはできて当り前」にしたいのです。いわゆる「読み書きそろばん」と同じ、誰もが学ぶべき最低限の素養としてプログラミングを位置付けたと考えて良いでしょう。これまでプログラミングや情報技術は、「一部の人が持つ特殊なスキル」という印象でしたが、今後はそれが変わっていくものと予想されます。

プログラミングが必履修化され、「できて当然」の社会に

ハイレベルかつ広範囲にわたる出題が予想されている

では実際、共通テストでどんな問題が出題されるのでしょうか。大学入試センターはすでに試作問題を発表しているので、それを見てみましょう。

「情報Ⅰ」は、「情報社会の問題解決」「コミュニケーションと情報デザイン」「コンピュータとプログラミング」「情報通信ネットワーク」という4つの領域で構成されていますが、すべての領域からまんべんなく出題されている印象です。

例えば「WEB上の著作権や肖像権」「画像処理の方法」などの基礎知識を問うものから、「交通渋滞を緩和するために最適な信号の点灯時間を計算する」「ID・パスワードの二要素認証の仕組み」「アクセスログ解析からSNSでの情報発信の効果を分析」といった実社会に対応した問題解決を強く意識した出題もなされています。当初は、パソコンを使ってプログラミングを実演する試験も考えられていたそうですが、実施環境が整わないと判断し、ひとまず見送られたようです。

試作問題の一例 <出典:情報処理学会「情報」試作問題(検討用イメージ)>

いずれにせよ、かなりハイレベルな試験内容である一方で、高校の「情報Ⅰ」は2単位しか設定されていません。現場の先生方は「この少ない授業時間では、入試に対応できるほどの指導ができない!」と悲鳴を上げており、これといった打開策も見えていないのが現状です。家庭など、学校外でも主体的に学ぶ機会が必要かもしれません。

例えば子どもたちの多くが大好きなスマホゲームですが、単にユーザーとしてそれを消費するだけではなく、その内部構造にまで関心を持たせるような働きかけができれば理想的。日常生活の中で、仕組みを理解しながらICTを積極的に活用することが大事になってくるでしょう。

※記事の内容は執筆時点のものです。入試制度などは今後、変更となる可能性があります。

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