【連載・これからの大学入試⑤】その数500以上! 多様化する大学の「学部選び」に必要な視点とは

「社会安全」「マンガ」「現代ライフ」「文化財」「モチベーション行動科学」……これらのキーワードに共通する要素がお分かりでしょうか? 実はこれらは、すべて大学の「学部名」。パッと見ただけでは、中身の想像がつかないと感じるかもしれません。学びの多様化は、子どもたちの興味関心と可能性を広げてくれる大きなチャンスでもありますが、それにしてもどうしてこんなに複雑になったのでしょうか? この背景と、これからの学部選びについて必要な視点を考えてみましょう。

学部数は、50年前の8倍にも増加・多様化

 保護者世代のみなさんが学生・生徒だったころ、大学の学部にはどんなものがありましたか? 大学に進学された方であれば、どの学部をどんな理由で選ばれましたか? もしかしたら「理系だから理学部」「文系なら法学部や経済学部」といった、シンプルな発想で選ばれた方もいらっしゃるかもしれません。

しかし現代の子どもたちの進路選びは、より複雑化していると言えます。なんと、現在の学部数はすでに500を超えており、50年前の8倍にも上っているためです。あまりにも次々と学部が新設されるため、高校の進路指導部の先生ですら情報収集が追いつかず「どんな学部かよく分からない」と漏らす状況になっているのが現状です。ましてや、専門家ではない保護者のみなさんなら、なおさらのことでしょう。ユニークな学部の一例

規制緩和と社会のニーズの変化を背景に急増

 ここまで学部が急増したのは、元をたどれば1991年に改訂された「大学設置基準」に起因します。いわゆる“規制緩和”が行われたのです。それまで学部名は、文部科学省(当時は文部省)の厳しい規定のもとに運営されており、カタカナを学部名に盛り込むことすら許されていませんでしたが、この緩和により多様で個性的な名前の学部が増えました。そのため「名前はユニークだけど中身は従来の○○学部と同じ」という学部もありますが、もちろんそうした事例ばかりではありません。

社会の大きな変化によって、新しい、あるいはマイナーだった研究分野が、一つの学問としてニーズが高まったことも強く影響しています。例えば、冒頭で述べた「社会安全学部」は、自然災害や社会災害への対応を念頭に、防災や都市計画などを専門的に研究する学部です。「モチベーション行動科学部」の「モチベーション」とは、人間の行動意欲のことですが、それを教育学や心理学の観点から研究し、組織におけるリーダーシップなどを学ぶことが期待されています。いずれも、現代社会で求められ始めたものが色濃く表れていることが分かりますね。

増加の傾向にある「文理融合」の学部に注目

すべてに共通しているわけではありませんが、新設される学部を中心に「文理融合」の動きが見られることも近年の特徴です。文理融合とは読んで字のごとく、文系・理系の垣根なく、横断的に学ぶ考え方のこと。

実は日本ほど文系・理系を強く線引きしている国は珍しく、冷静に考えればそもそもなぜ分ける必要があるのか、不思議に感じますね。これは1910年代、欧米諸国との苛烈な国際競争の中で、工学系と法学系のスペシャリスト育成が至上命題だったため。国を支える専門エリートを効率よく育てたかったからです。その名残で、いまだ大学も高校も文理を分けたがる傾向がありますが、時代を考えれば文理融合は当然の流れであり、「もはや分けることに意味はない」と指摘する識者もいます

文理融合系の学問で代表的なのは、今や世界のトレンドになりつつある「データサイエンス」、環境・地理・政治・経済などから多角的に社会政策を考える「社会環境学」など。具体的な大学・学部としては、慶應義塾大学の湘南藤沢キャンパス、都市科学部(横浜国立大学)、データサイエンス学部(滋賀大学)、共創学部(九州大学)、国際情報学部(中央大学)などが有名です。

こうした横断性のある学際的な学びは国も押し進めており、今後も文理融合系の学部は増加するのではないかと見られています。

文理融合系の学部を持つ大学の一例(リベラルアーツ系学部との重複あり)

あえて専門性を絞らない「リベラルアーツ」系の学部にも脚光

同じく近年の傾向として「リベラルアーツ(LA)」系の学部も注目を浴びています。

これまで大学は主に「即戦力人材を育てるため、専門教育を行う」機関でした。しかし専門以外のことはからっきしという人材が生み出されることも多く、それでは現実社会の問題に対応しきれません。文理融合系の学部にも見られるように、法学の知識と生物学の知識を同時活用するようなケースも求められます。そこで、豊かで幅広い教養を持って、総合的な問題解決能力を持つ人を育てようというのが、LAです。

私たちはつい、学びと職能的なスキルを短絡的に結びつけて、「これを学べばどう役立つか」という分かりやすい正解を求めがちですが、「どう役立てるかは自分しだい」なのがLAであり、学問の原点や本流であるとも言えます。LAは直訳すると「教養教育」ですが、本来の語源は、その教養で可能性や選択肢を広げ「人を自由(リベラル)にする」学問だと言われています。

いくつかの学部の一つとしてLA系の学部を設置する大学もあれば、国際教養大学や国際基督教大学のように「国際教養学部」「教養学部」のみ置く、言わばLA専門の大学もあります。

リベラルアーツ系の学部を持つ大学の一例(文理融合系学部との重複あり)

子どもたちの可能性の芽を摘まないアドバイスができるように

このように、多様化が進む日本の大学(学部)。

学部選びはお子さんの主体性が何より大事なのはもちろんですが、親の基礎知識がゼロではアドバイスもできません。例えば理学部と工学部、および理工学部の違いを正しく説明できるでしょうか? 経済学部と経営学部、あるいは商学部の違いは何でしょうか? 本当は我が子に最適な学部かもしれないのに「そんな聞いたこともない学部はやめておいたら?」なんてアドバイスは避けたいもの。すべてを把握するのは難しいとしても、傾向くらいは知っておきたいですね。

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